【ゴジラ×MTG】プレインズウォーカーのための「ゴジラシリーズ」案内 その2

はじめに:この戦いで、全てが終わる

 この記事は、『イコリア:巨獣の棲処』でのゴジラ×MTGのコラボカードを通じて、原作における怪獣の設定や映画作品の魅力をお伝えする『プレインズウォーカーのための「ゴジラシリーズ」案内』の後編です。前編をまだ読んでいない方は、まずこちらからご覧ください。

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⑨ベビーゴジラ:孤独な王の同胞、平成の「ゴジラの息子」

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・初登場作品:『ゴジラvsメカゴジラ

出典作品:『ゴジラvsメカゴジラ』(ベビーゴジラの名称)『ゴジラvsスペースゴジラ』(リトルゴジラの容姿)

 このキュートな怪獣の出典は曲者です。というのも、最初に「ベビーゴジラ」という名前で登場した彼は、登場を重ねて成長するごとに出世魚の如く名称と容姿が変わっていったからです。そしてこのカードは『名称はベビーゴジラだが、イラストに描かれているのはリトルゴジラの状態』というねじれ現象が起きています。ナンデ? ただし、『ゴジラvsスペースゴジラ』の劇中では設定上の名称である「リトルゴジラ」は一切呼称されず、依然として人間からは「ベビー」と呼ばれ続けるので、あながち間違いと言い切ることもできません。

 ゴジラvsメカゴジラに登場したベビーゴジラは、vsシリーズにおけるゴジラの起源である恐竜ゴジラザウルスの赤ん坊です。ゴジラの血の繋がった子供ではなく、ベーリング海に浮かぶアドノア島でプテラノドンの巣に托卵されていた卵から生まれた孤児であり、そのせいか翼竜怪獣ラドンと精神的な繋がりを持っています。また日本の国立生命科学研究所に運び込まれてからは、世話を焼いてくれた研究者・五条梓のことを母親とみなしてしまいます。鳥類の刷り込みのようですね。

 やがて紆余曲折を経てゴジラの元で生きていくことになったベビーは、何だかんだでちゃんと父代わりの怪獣王に懐きます。そしてゴジラvsスペースゴジラの頃には恐竜ゴジラザウルスとして大きくなり続けるのではなく、直立姿勢の怪獣リトルゴジラに成長していました。その時の姿が、カードイラストに描かれているものです。

 ベビーゴジラゴジラと種族としては全く同じなので、恐竜であるべきです怪獣に変質したリトルゴジラとしてはミュータント・恐竜となるでしょう。カエルと化したベビーは今回のコラボの楽しいツッコミ所の一つです

 一方で彼のカラーパイが青単色であることは、あながち間違いでもないと言えます。花瓶に入った生花や差し入れられたハンバーガーを口にして好物になったり、人間になついたりと、未知に心を開いた好奇心豊かな性格なのですから。一方で性格自体はおとなしめで野生の本能を十分に備えておらず、臆病な所があります。また或る種の精神感応能力を持ち、恐怖を感じると遠く離れていてもゴジララドンを呼び出すことができますが、これはMTGにおいて青に列するスキルです。

 ゴジラと人間たちに見守られながら健やかに育っていったベビー/リトルゴジラ。ですが彼にも試練の時と、これまで以上の爆発的な変化が訪れます。vsシリーズ完結編ゴジラvsデストロイアで、クジラを捕食するほどの体躯とゴジラに近い姿や本能を持つゴジラジュニアに変容を遂げた彼は、最後には――? 地球最大の親子愛が行き着く先を、ハラハラしながら見守ってあげてください。

ラドン:義兄弟を護るために命をかけた「翼竜怪獣」

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初登場作品:『空の大怪獣ラドンゴジラシリーズ内では『三大怪獣 地球最大の決戦

出典作品:『ゴジラvsメカゴジラ

 火山に住まう翼竜の怪獣ラドンモスラ同様に、単独作品でデビューを飾ってからゴジラシリーズに合流した怪獣です。『アベンジャーズ』シリーズをはじめとした現代のハリウッド映画に近い構造が、戦後20年足らずの日本の怪獣映画で成立していたのは中々興味深い話ですね。ゴジラシリーズ初出演作『三大怪獣 地球最大の決戦』で言う所の「三大怪獣」とは、すなわちゴジラモスララドンの三体を指します。現在は同作で初登場したキングギドラにtop3の座を脅かされている感もありますが、最新作『キング・オブ・モンスターズ』での凶暴なカッコよさと俗物ぶりが同居した怪演もあり、今なお高い人気を誇る一体です。ちなみに英語版ではカード名が「Rodan」(ロダン)となっていますが、これは誤表記ではなく正式な英語における呼称だったりします。

 コラボカードに登場するラドンは、角の形状や長く鋭い嘴、翼に浮き出た太い血管のディティールなどからゴジラvsメカゴジラに登場した個体だと考えられます。ベビーゴジラの項目で前述した通り、本作ではアドノア島に生き残っていたプテラノドンの巣にゴジラザウルスの卵が托卵されていました。プテラノドンはその卵を自分の兄弟だと信じ、それは使用済み核燃料の影響でラドンへと変容した後も、そして卵からベビーが生まれてからも変わりませんでした。ラドンは物語の序盤で卵に誘われてアドノア島に現れたゴジラと交戦し、一進一退の攻防の末に岩の下敷きになったにも関わらず平然と起き上がったゴジラに虚を衝かれ敗北します。ですが後半で鮮やかな赤色に染まったファイヤーラドンにパワーアップして戦線復帰し、日本へと飛来します。ただ「家族」を助けるために。

 『vsメカゴジラ』におけるラドンの前身は、翼竜プテラノドンと明確に設定されています。MTGでの「恐竜」は文化的なわかりやすさを重視して翼竜や首長竜が含まれ、逆に鳥類が排除されているので、ラドンのクリーチャータイプはゴジラ同様の恐竜・ミュータントとなるのです。実際のところ猫ではないと思います。多分。

 またこのラドンのカラーパイは赤白と捉えるのが自然ではないかと考えています。『vsメカゴジラ』の作中でラドンを突き動かす目的は一貫して卵および孵化したベビーゴジラを救出することでした。この強く行動的な家族愛はMTGでは赤に列するものであり、激しい情動を司る色としての一側面を示しています。一方でラドンにはモスラのように街を破壊しないよう努めるような性質は無いものの、「ベビーを助ける」という彼なりの正義のために自分の身すら顧みない無死の心があります。これは白、あるいは白の利他性と赤の愛情の重なる部分にあるものです。本作の最終決戦では、ラドンのこういった性格の極致たる名シーンが展開されます。

 『ゴジラvsメカゴジラ』のストーリーの真髄は、命を持ったゴジラと純然たる機械のメカゴジラの対決を描く上で、ゴジラの持つ心の機微や生命体としてのダイナミズムに真摯に向き合ったことです。本作ではゴジラの解剖学的な弱点が設定され、メカゴジラの最強の武装の一つはそこを突くものとなっています。また言わずもがなベビーゴジラの登場によって、地球に残された最後の同胞を求めるゴジラの姿が、過度な擬人化を伴わず丁寧に描かれているのです。また対するメカゴジラとそれを操る人々のドラマも「人類を護る盾」と「ある命にとっての災厄」という二つの側面を抱えることによって、奥行きに富んだ内容に仕上がっています。そして何より冒頭の格納庫のシーンからスーパーメカゴジラに合体しての最終決戦まで、重厚な戦闘ロボットとしてのケレン味を存分に発揮してくれるのが大きな魅力です。もちろんラドンも「怪獣の心」を演じる名脇役として活躍しています。総評すると、『vsメカゴジラ』は「戦闘のビジュアル的な楽しさと怪獣映画ならではのドラマを高いレベルで味わいたい」という欲張りなあなたにオススメの作品です。

⑪スペースゴジラ:自らの起源に牙を剥く「戦闘生命」

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初登場作品:『ゴジラvsスペースゴジラ

出典作品:同上

 スペースゴジラゴジラの派生としての恵まれたビジュアルとそれに恥じない強さを持ち、映画作品への登場は一回きりながら高い人気を誇る怪獣です。筋肉が露出したような腹部、星型の角、肩から突き出た突起物、顔面から生えた牙(これはビオランテの要素でもあり、後述する設定との関連性が窺えます)といった特徴は、SFCのゲームに登場したゴジラの強化形態「超ゴジラ」から借用したものですが、原型と違い巨大な結晶体の要素を盛り込むことで無機的な異質さが漂っています。

 ビオランテモスラを経由して宇宙に流出したG細胞が、ブラックホールに吸い込まれて結晶生命体と融合し、恒星の死による大爆発のエネルギーを吸収し、ホワイトホールを抜け出した時に進化を遂げて生まれたと思われる怪獣がスペースゴジラです。途中で幾つも異常な前提が持ち出された気がしますが、時折すごく大雑把になるのもゴジラの「味」の一つだと思います。まあゴジラvsスペースゴジラはシリーズ全体で見ても良くも悪くも大味さが極まっている映画なのですが……。

 スペースゴジラのクリーチャータイプを考える時に扱いかねる構成要素は謎の「結晶生命体」です。この設定は殆ど掘り下げられていない上に作中でも推論として語られるに留まり、G細胞により変容する前はどのような存在だったのかを判断する材料がほぼありません。何なんだよ一体こいつは……!!とブチギレながらMTGで辛うじて当てはまりそうなクリーチャータイプを探していた私の下に、やがて天啓が舞い降りました。

プリズム - MTG Wiki

 そう、プリズムです。

 MTGにおける「プリズム」は、《ダイヤモンドの万華鏡》というカードが生成するクリーチャー・トークンのためだけに存在する、超絶マイナーと言って差し支えないクリーチャータイプです。そして一般論としてのプリズムは、ガラスや水晶で出来た光を分散・屈折させるモノのことですが……実はスペースゴジラの肩の結晶には、口から吐く破壊光線――他ならぬ「コロナビーム」の軌道を曲げる機能があります。またゴジラの熱線を容易く減衰する強力なバリアを貼ることもでき、光学的な異能においては全ゴジラ怪獣の中でもトップクラスの多芸さと強力さを誇ります。そういうわけで、スペースゴジラのクリーチャータイプは恐竜・プリズムというのが私が導き出した答えです。

 スペースゴジラのカラーパイは奇しくも、神話レア版のカードの色:黒緑青と一致します。真っ先にリトルゴジラを痛めつける非情さや、遠い宇宙で誕生したにも関わらずゴジラを抹殺するため地球に飛来する、自らの存在を証明するかのような執念は非常に黒い性質です。加えてリトルを人質とし、エネルギーを宇宙から引き込む水晶が林立する空間に改変された福岡へとゴジラを誘い込む行動には、緑と青が合わさった「自己や環境そのものを強さを引き出すために順応させ、待ち伏せて戦う」性質が現れています。緑中心で優しくマイペースな性格の《永遠の頂点、ブロコス》と大きく異なりますが、同じ3色でも黒が主体の「残忍の氏族」スゥルタイの在り方とは似ていますね。

 『ゴジラvsスペースゴジラ』は正直に言えば些か強引な展開が頻発し、粗が多いです。特撮面でも、宇宙空間での描写がかなりお粗末だったりと難が無いわけではありません。というのも本作はトライスター・ピクチャーズのハリウッド版ゴジラの製作が難航している中で、『vsメカゴジラ』にて既存シリーズを完結する当初の計画を破棄し急造されたものなのです。ですが決戦シーンの特撮には非常に熱が入っており、前作のメカゴジラとは一線を画すスピード感に満ち格闘戦もこなす合体ロボット兵器MOGERAや、水晶のミサイルにコロナビームに『エイリアン』を思わせる鋭い尾による刺突攻撃と様々な技を操るスペースゴジラの迫力には鬼気迫るものがあります。そしてvsシリーズで唯一の「人間とゴジラの明確な共闘」と「そうしなければ勝てない超強敵スペースゴジラ」という熱いシチュエーションが強く押し出されており、細かいことは抜きにしてアドレナリンが湧き出すような勢いを持った作品と言えるでしょう。

デストロイア悪魔の発明によって目覚めた「完全生命体」

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初登場作品:『ゴジラvsデストロイア

出典作品:同上

 『ゴジラ』(1954)において、防衛軍が保有する兵器の一切を退けたゴジラは、若き科学者・芹沢大助が発明した物質「オキシジェン・デストロイヤー」によって死滅しました。この時に芹沢は予め研究資料を全て焼き捨てた上で、海底のゴジラを抹殺する作戦を自ら潜水服を纏って実行し、最後は命綱を切断して自決を遂げます。全ては、大量破壊兵器に転用されかねない「悪魔の発明」を忘却の彼方へ消し去るために。その後確かに、オキシジェン・デストロイヤーが人間の手で利用されることはありませんでした。しかしこの兵器による完全な無酸素状態は先カンブリア紀の水中に酷似した環境を作り出し、休眠していた太古の生物から怪獣が誕生するきっかけを作ってしまいました――そう、デストロイアです。

 ゴジラvsデストロイアに登場したこの怪獣は、第一作目以来の「ゴジラの死」を描く物語にふさわしく、かつて最初のゴジラを葬ったオキシジェン・デストロイヤーによって生まれ、あまつさえ類似した物質であるミクロオキシゲンを体内で生成します。元々は名もなき微生物でしたが、トンネル工事で酸素に触れたことをきっかけに恐るべき速度で増殖と合体を繰り返しました。程なくして陸上を歩き回る多脚の異形へと成長し、最終的にG細胞をも取り込んで有翼の大怪獣の姿=完全体へと変容しました。カードイラストに描かれているのはこの完全体ですね。ちなみに分離して前の形態に戻ることも可能です。しかも設定上は「これ以上進化しないという保証はどこにもない」のだとか。際限なく姿を変えるイコリアの巨獣たちに最も近い怪獣の一体かもしれません。

 スペースゴジラほどではありませんが、デストロイアのクリーチャータイプを判断するのは中々困難です。各形態は三葉虫カブトガニに似ていたり、サソリやクモを思わせたり、殆どドラゴンのようだったりしますが、デストロイアはその何れでもありません。しかも変化は可逆的なのです。頭を悩ませた末に、デストロイアに相応しい種族は多相の戦士なのではないかという結論に至りました。このクリーチャータイプは日本語訳の文面ではまるで職業のような印象を与えますが、原語では「Shapeshiter」であり「姿を変えるもの」という程度の意味です。実際に「戦士」とは言い難い諜報員や、人型種族ではない生命体も多く在籍しています。そこに多くのゴジラ怪獣同様の突然変異による成り立ちが加わるため、多相の戦士・ミュータントとなるはずです。

 カラーパイ的には、デストロイア黒青赤と考えられます。完全体となったデストロイアは非常に強く、ゴジラの肉体を切断するほどの破壊力を誇る凄まじい攻撃を繰り出します。ですが、それ以上に印象的なのは策を弄するバトルスタイルです。幼体の時には建造物の配管伝いに密かに這い回り、突然壁や床を崩して襲いかかる狡猾さで警察の特殊部隊を翻弄しました。巨大な怪獣となってからも、旗色が悪いとなると速やかに逃走し死んだフリからの不意打ちを行う狡賢さとアドリブ力は健在です。また過剰に攻撃的かつ残虐行為を楽しんでいるかのように見える面があります。幼体がパトカーの中に取り残されたニュースキャスター・山根ゆかりと相対した時には、敢えて殺さずに何度も車体を転がして恐怖を与え、ゆかりと視線が合うと不気味に微笑むように目を細めていました。これらを踏まえると、デストロイアには黒青的な奇策を駆使する知性と黒赤的な嗜虐性および瞬発力が備わっていると言えるのです。

 「ゴジラ死す」――この端的で痛烈な5文字こそが『ゴジラvsデストロイア』のポスターに踊るキャッチコピーです。そして予告詐欺ではなく本当に死にます。体内炉心が暴走して全身が赤熱し、いつ世界を崩壊させるほどの核爆発を起こしてもおかしくない巨大な爆弾と化したゴジラ。極大化したエネルギーを発散してもしきれず暴れ狂う様に胸を締め付けるような恐ろしさと哀しみを漂わせながら、物語は終局へと着実に進んでいくのです。個人的に、『vsデストロイア』はゴジラシリーズという「文脈」をある程度理解した上で体験して欲しいと思っています。具体的には『ゴジラ』(1984)~『ゴジラvsスペースゴジラ』を見た上で、更に『ゴジラ』(1954)を見てからの視聴をオススメします。本作はvsシリーズの集大成であると共に初代ゴジラの直接の続編という色彩が濃い作品です。キーアイテムとしてのオキシジェン・デストロイヤーとゴジラの死というプロットポイントの再利用に加え、ある登場人物が配役そのままに再登場し、その親族にあたる新キャラクターも主役級の活躍を見せます。本記事を読んでゴジラをシリーズとして楽しみたいと思っていただけたなら、怪獣王の道のりをしばし追いかけた後に、満を持して終わりゆく生命が残す最後の足跡を目撃してください。

メカゴジラ:人類最後の希望「3式機龍」

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初登場作品:『ゴジラ対メカゴジラ

出典作品:『ゴジラ×メカゴジラ』『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS

 「メカゴジラ」の名を関する怪獣は『ゴジラ対メカゴジラ』(「その1」のキングシーサーの項目で触れているので、まだの方は読んでいただけると幸いです)でデビューして人気を博すと、昭和シリーズの終了後も作品ごとに異なる世界観に合わせて様々な姿と設定を与えられて再登場しました。それらの中で今回のコラボカードに抜擢されたのはゴジラ×メカゴジラとその続編ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOSで活躍した3式機龍――対怪獣を専門とした陸海空に続く自衛隊第四の部門、特生自衛隊が誇る対ゴジラ兵器です。ちなみにカード名こそメカゴジラですが、作中でメカゴジラと呼称する人物は一作目にしか登場せず、もっぱら機龍と呼ばれています。

 機龍が歴代メカゴジラと大きく異なるのは、オキシジェン・デストロイヤーで軟組織を融解し尽くされた初代ゴジラの骨格をそのままフレームとして使用している点です。加えてゴジラの骨髄間質細胞を用いたDNAコンピュータを搭載しており、機械でありながら動物のような運動性能と反応速度を持つ超攻撃型メカゴジラに仕上がっています。また誘導弾を満載したバックユニット、口内のメーサー砲、そして機体の電力の約40%を引き換えに放たれる絶対零度の凍結破砕弾アブソリュート・ゼロと、武装も過去作の要塞じみたメカゴジラとは別ベクトルながら充実の一言。しかし「サイボーグのゴジラ」であることは機龍にとって強みであると共に、重大な問題にもなってしまったのです――。

 先述した通り、メカゴジラは外装は完全な機械であるものの、骨格は生体素材です。実はMTGにも《エイスサーの滑空機》という似たような性質を持つアーティファクト・クリーチャーが存在します。これは名前の通りエイスサーと呼ばれる巨大な鷹の骨を大胆に使用したグライダーであり、その生物としての出自に由来する「鳥」と人の手による「構築物」の2つのクリーチャータイプを持っています。これに初代ゴジラが恐竜とも言い難い微妙なカテゴリの生物であることを加味して、機龍のタイプは伝説のアーティファクト・クリーチャー - ビースト・構築物になるのではないでしょうか。

 MTGにおいて一般的なアーティファクトは無色です。しかし生体と機械の融合体やマナの力との深い関連性を示す、有色のものも中には存在します。機龍は人間の技術の粋を集め、国防のために生み出された存在でありながら、その内部には巨獣の命の名残を宿しているという点で青白緑の有色アーティファクト・クリーチャーです。『×メカゴジラ』の作中において機龍は眠っていたゴジラの本能が覚醒し、暴走して街を破壊してしまう描写があります。この問題はDNAコンピュータの塩基をオリジナルのゴジラのものから修飾塩基に変更する処置で克服されましたが、『東京SOS』では破壊的な暴走とは異なる形で機龍の意思が発露します。そして第一作目では支配すべき「野生」として描かれた「緑」の要素に、運命を受け入れ静かに眠る日を望む「受容」の側面が付与されるのです。或いは、機械でありながら命の残滓と底力を持っていることが機龍対ゴジラの結果を他のメカゴジラによる戦いとは異なるものにしたのかもしれません。

 機龍二部作は「怪獣に匹敵する兵器を持つ自衛隊」「家族の物語」「人間の敵であると共に悲劇の当事者でもあるゴジラを通じて生命の尊厳をうたう」というvsシリーズの作風に立ち返りつつ、戦闘の表現とSFとしての質感を21世紀風にリファインした作品群です。そこに「とある事情で一線を退いたエースパイロットの復活劇」「人一倍メカを愛する整備士と荒っぽいパイロットの対立と和解」といったロボットアニメ的な筋書きを組み込むことで、怪獣映画にあまり馴染みがない層でも見やすい作品に仕上がっています。機龍の設定や一部の展開で『新世紀エヴァンゲリオン』等の作品との類似性を指摘されることもありますが、逆に言えば「あ、これアレで見たやつだ」と理解をショートカットできるのは見易さにつながるものです。また過去の良く言えば重厚、悪く言えば鈍重なメカゴジラ像から一新された「高機動」な機龍の戦闘シーンは圧巻です。全体としてハイスタンダードでわかりやすいので初心者向けですし、ゴジラシリーズに直接登場していないものも含めて過去の怪獣がカメオ出演するので、東宝怪獣そのものに興味を持つ入り口としても価値のある作品と言えるでしょう。

ガイガン:異星の生ける殺戮機械「サイボーグ怪獣」

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初登場作品:『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン

出典作品『ゴジラ FINAL WARS

 猛禽類と爬虫類の凶悪でカッコいい所を混ぜて機械化したら、絶対イケてるに決まっています。それを実現したのがこのガイガン、どっしりと構えたキングギドラとは異なる鋭利なヴィランのイメージが魅力的な怪獣です。名前の「ガイ」は「ナイスガイ」に由来し、サングラスを連想させるバイザーは石原裕次郎氏のイメージから着想しているので、イケメンになるべくして生まれてきたわけですね。

 イラストのガイガンゴジラ FINAL WARSに登場した個体です。当時『仮面ライダー剣』の怪人デザインで名声を高めつつあった韮沢靖氏のデザインで、氏の好むレザーファッション風のモチーフがガイガンが元来持っていたイメージと見事に調和しセクシーな悪の魅力が全開になっています。作中では一度ゴジラに敗北し回収されたあと腕の武装をチェーンソーに換装していましたが、今回はデフォルトの鎌装備状態です。

 このガイガンがどういう生物なのかは極めて曖昧です。昭和版には「宇宙恐竜を改造したもの」(宇宙恐竜って何?ゼットン?)という設定がありましたが、『FINAL WARS』版は特に出自の情報がありません。ガイガンとそれを使役する侵略宇宙人X星人は「M塩基」と呼ばれる塩基を保有しているため、X星土着の生物である可能性が高いですが、それは特にクリーチャータイプを解明する助けにはなりません。仕方ないので、「雑多な怪物」としてアーティファクト・クリーチャー - ビーストのタイプを与えることにしましょう。記事全体を通して一番モヤッとする結果になってしまい申し訳ないです。

 ガイガンのカラーパイは赤黒です。地球怪獣をも支配下に置く侵略宇宙人の尖兵でありチェーンデスマッチやノコギリ系の武器などの凶悪な攻撃を得意とする、という点では黒の要素があるのですが、最も目を引くのは「無駄に赤い」ところです。改装後に再出撃するや否やカメラ目線でポーズを決め、終盤のモスラとの戦いでもやはり事あるごとにポーズを決め、戦いの中で無意味に自分のカッコよさを追求しています。そしてこのあまりに刹那的かつ芸術的な生き様のせいでとんでもなく痛い目に遭う所も含めて、非常に赤い部分が濃い怪獣なのです。

 ガイガンはどうやらX星人を指揮する統制官(名前が設定されていないが、演者が北村一輝さんのためファンからは北村一輝と呼ばれることが多い)のお気に入りの怪獣らしく、起動時には「ガイィィガァァァァァン!!!起動ォォォォォ!!」とコールがかかり、頭部を損壊して帰ってきたときは修理を受けるだけではなく腕に新しい武器を貰うことが出来ました。この統制官、支配下に置いた怪獣がゴジラに敗れると激しく地団駄を踏んで悔しがったり、トライスター版ゴジラそのものの容姿を持つジラゴジラに瞬殺されると「やっぱりマグロ食ってるようなのは駄目だな。次!」と原作の設定を批判し始めたりと、だいぶ勢いだけで生きています。「無駄に赤い」のは主従揃っての特徴かもしれません。

 『ゴジラ2000 ミレニアム』から始まった第三期ゴジラシリーズ、通称ミレニアムシリーズの最終作にして、ゴジラシリーズそのものの暫定的な締め括りとして作られたのが『ゴジラ FINAL WARS』なのですが……良くも悪くもぶっ飛んだ映画です。超人的な身体能力を持った生身の人間のバトルシーンが頻繁に挿入されたり、その生身の人間に曲がりなりにも巨大怪獣であるエビラが倒されかけたりドン・フライが演じる地球防衛軍の大佐も超人設定ではないのにめちゃくちゃ強かったり、BGMがキース・エマーソンが手掛けるゴリゴリのハードロックだったりと、「有終の美を飾る記念映画」としては尖りすぎています。ストーリーもこの上なく大味で、登場怪獣は非常に多い分扱いの差が激しいです。一方で歴代最強クラスの圧倒的な実力で次々と敵怪獣を薙ぎ倒していくゴジラには有無を言わさぬカリスマ性がありますし、ほぼ常に何かしらが戦っている絵面が続くので疾走感は全ゴジラ作品でも随一と言えます。誰にでも刺さるものだとは思いませんが、ジャンキーな味わいが好きだという自覚があるなら試してみるのも一興です。

シン・ゴジラ:無限の進化を続ける「巨大不明生物」

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 出典作品:『シン・ゴジラ

 正確に言えば、この怪獣は他でもない「ゴジラ」です。シン・ゴジラという名は、飽くまでも他作品のゴジラと区別するための通称です。しかしこれまでのゴジラとはあまりに異なる生態を持ち唯一無二の不可解な存在感を放つ「それ」には、『神』とも『真』とも『新』とも取れる「シン」の冠が似つかわしいようにも思えます。

 カードイラストにも描かれた赤みがかった皮膚、小さく濁った何を考えているか分からない眼、捕食の不必要性を暗示する乱れた歯といった特徴の段階で過去のゴジラとは異質ですが、これも実はシン・ゴジラの「形態のひとつ」に過ぎません。その本質は人間の約8倍の量の遺伝子情報を持ち、水と空気さえあれば食事なしに行動に必要なエネルギーを生み出し、自由自在な進化・退化・分裂を1個体で可能とする究極の生命体です。事実この形態をとったシン・ゴジラの尻尾には頭部に見えるパーツが備わっており、既に分裂の徴候が見られます。

 シン・ゴジラ放射性廃棄物の影響で異常な進化を遂げた可能性が提示されており、そのクリーチャータイプは、デストロイアとほぼ同じ理由で多相の戦士・ミュータントになるでしょう。実際「際限なく進化し変容する怪獣」としてのデストロイアとの類似性は、上映当時からシリーズファンの間では話題になっていました。

 一方でシン・ゴジラの性質や挙動はデストロイアとは大きく異なります。この怪獣からは悪意はおろか、大凡「感情」や「欲求」と呼べるものが感じ取れないのです。前述した通り食事やエネルギー補給のために地上に出る必要はなく、また人間への憎悪から立ち止まって意図的に建物を破壊することもなく、淡々と「前進を続ける」だけで都市を粉砕し人命を奪っていきます。唯一明確に見て取れるのは自己保存の本能であり、人間の兵器から攻撃を受け負傷した時に急激な進化を起こしていました。純粋な「自然の災厄」といった雰囲気のシン・ゴジラですが、断片的に示唆される「次の進化」では複数体の人型生物に分裂する可能性があり、本当に怪「獣」の枠に収まるかも分からない存在です。一方でその際限ない進化や永久機関の如きエネルギー生成システムを解明できれば、人間に無限の物理的可能性をもたらす「福音」ともなりうると作中で語られています。

 上記を踏まえ、シン・ゴジラのカラーパイは緑青だと判断します。緑青はありのままの自然を司る緑と完全性への永遠の変革を是とする青が合わさった結果「環境への順応」「状況への適応」「未知の可能性」「進化する生命」といったテーマを持つ色ですが、シン・ゴジラの特性はこれら全ての極致を示しています。それはただ生き続けるために生命をまっとうする緑であると共に、人間の攻撃や周囲の状況を適切に分析して合理的な進化を行い誰も知らない完璧さに向けて変わり続ける青なのです。尤も、このゴジラに平成の日本を相次いで襲った大地震、特に東日本大震災のメタファーという側面が含まれていることを考えると、カードの色が赤なのも一つの「符合」かもしれません。MTGにおいて《地震》は赤なのですから。

 これまで紹介したゴジラ映画は基本的に『ゴジラ』(1954)との繋がりを持っていましたが、シン・ゴジラは完全に世界観をリセットした作品です。本作の世界には過去にゴジラが現れたことがないばかりか「怪獣」という語彙が存在せずゴジラ命名されるまで「巨大不明生物」と呼ばれます。そして作中の技術レベルや社会構造は現実とほぼ同様であり、現実対虚構ニッポンたいゴジラのキャッチフレーズの通り「もしゴジラ現代日本に上陸したら?」というシチュエーションが理詰めかつハイテンポな政治劇を軸として臨場感豊かに描き出します。都市の破壊の描写もリアリズムに溢れ、直接的なゴア描写を意図的に排除しているにも関わらず、非常に痛切に感じられる一級品です。そして中盤にゴジラが「ある行動」に出たことを境に物語のギアが明確に一段階上がり、絶望の中で団結し死力を尽くす人々が大きなカタルシスを生みます。この作品を取り上げて「本当に虚構なのは日本とゴジラのどちらか」と考え込んだり、今まさに生物的な存在の進化によって苦境に立たされている人類に思いを馳せるのもそれはそれで楽しいのですが、何を置いてもエンターテイメントとして最高なのでぜひ見てほしいタイトルです。

【EX】ヘドラ:高度経済成長の影に潜む「公害怪獣」

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初登場作品:『ゴジラ対ヘドラ

出典作品:『ゴジラ対ヘドラ

 シン・ゴジラの項目をもって、『イコリア』とのコラボでカード化された怪獣を紹介し終えました。ですがこの記事の「その1」を投稿してから今までの間に、ちょっとしたサプライズがありました。それはゴジラシリーズの怪獣が描かれた基本土地5枚セットの『Secret Lair Drop Series』が発表されたことです。全ての土地に昭和風のゴジラが登場し、加えて平地にはモスラが、山にはラドンが、そして沼にはヘドラが姿を見せました。私は「想定外だけどここまで来たらヘドラも紹介しなければ」という使命感に突き動かされ、気がつくと項目が一つ増えていたのです。

 ヘドラは公害が社会問題となっていた1971年に初めて出現した怪獣です。宇宙から飛来した鉱物生命体ヘドリウムが海に撒き散らされた汚染物質と融合し、ヘドラへの変容を遂げました。最初はオタマジャクシに似た小さな怪獣でしたが、汚染物質を吸い込みながら融合と進化を繰り返して地上へ上陸し、金属を腐食し人間を白骨化させる硫酸ミストをばらまく飛行形態を経て、最後はゴジラを凌ぐ体躯を持つ完全体となります。このヘドラ、実は歴代でもかなり強い怪獣の一体で、ゴジラの左目を潰し手を白骨化させる大きな戦果をあげています(次回作では何事もなかったように健康体に戻っていますが)。更に旗色が悪くなると空を飛んで逃走を図る冷静さを持ち、ゴジラ放射火炎の反動で空をぶっ飛ぶ奇跡の技を繰り出さなければ捕獲は叶わなかったでしょう。

 ヘドラシン・ゴジラデストロイアに先駆する「段階的に姿を変えながら巨大化していく怪獣」です。ただその変化は生物としての形態そのものが変わってしまう後の二者ほどドラスティックなわけではなく、汚染物質と他のヘドラ個体を巻き込みながら膨れ上がっていく中で能力が増えていく、というのが適切です。つまりスライム型の不定形生物であり、このような怪獣にはウーズというピッタリのクリーチャータイプがあります。

 ヘドラはカラーパイ的には黒青に分類されます。それは人類の犠牲を顧みない発展を契機として誕生した怪獣であり、多くのゴジラ怪獣の中でも最悪レベルの「命を奪う」「環境を汚染し自分の望み通りに変える」ことに特化した能力を保有しています。また自身の姿を自在に変化させ、増殖と分裂を行い、青が持つクリーチャーの特性変更やコピー能力さながらの幻惑戦法でゴジラ自衛隊を苦しめるのです。余談ですがヘドラには「忍者怪獣」というもう一つの異名があります。これが予告編では「公害怪獣」の代わりに使われていますが、MTGにおける忍者は黒青に列する職業とされています。

 ゴジラ対ヘドラは歴代作品でも特に濃厚に世相を反映した作品ですが、ただ社会問題を意識した作品という以上に映像が凄まじいです。不似合いな明るい曲調で凄惨な公害の現実を歌うテーマ曲「かえせ!太陽を』をバックに汚れきった海と壊れたマネキンや無数の死んだ魚が映し出されるOPからして、面食らうほどの強烈さが漂っています。ヘドラによって白骨化する人間を筆頭におぞましい表現が頻発し、そこにサイケデリックやゴーゴーと言った時代の文化の活写が重なり合い、類を見ない独特な雰囲気が形成されているのです。生理的嫌悪感を煽る生々しい怖さゆえに万人受けはしないと思いますが、70年代初頭でなければ作れなかった圧倒的な「質感」があり、個人的にはとても好きな映画です。

結び:いま、壮大なロマンの目覚め!

 以上で、2回に渡る『ゴジラ』の怪獣たちの紹介記事は完結となります。「その1」でも書いた通り、自分はゴジラのことなら何でも知っている「マニア」を名乗るほどではなく、普通の「ゴジラファン」です。ですがMTGゴジラ両方を愛する者として、自分なりに気合を入れて『プレインズウォーカーのための「ゴジラシリーズ」案内を執筆させていただきました。ゴジラシリーズは怪獣という巨大な生命を通じた文明批評の要素を根底に抱えており、「緑」の思想と相通じるものがあります。そういった視点でゴジラの歩みを辿ることで、MTGゴジラを両方知っているからこその楽しみ方を味わえるのです。この記事を通して、一人でも多くのMTGプレイヤーの皆様がゴジラ映画に興味を持ってくださることを願っております。