【ゴジラ×MTG】プレインズウォーカーのための「ゴジラシリーズ」案内 その1

はじめに:ゴジラか、プレインズウォーカーか、驚異と戦慄の一大攻防戦!

去る4/3、私たちは誰も予想だにしなかった衝撃的な光景を目にしました。

mtg-jp.com

 世界初のトレーディングカードゲームMagic: the Gathering』(以下MTG)と、日本初の特撮怪獣映画『ゴジラ』シリーズ、この2つの超強力コンテンツによる夢のコラボレーションが発表されたのです。

 ゴジラシリーズのキャラクターはMTGにおいて、怪獣映画をモチーフとした最新カードセット『イコリア:巨獣の棲処』に収録されるカードのイラスト違い版として登場します。つまり、ジョークカードなどではなく実際にゲームで活躍させられる、ということになります。

 ところでMTGでは、カードセットごとに背景世界の緻密な設定を練り上げ、電子書籍や公式サイトのWeb小説といった形で本格的なストーリーが語られることも魅力の一つです。共に戦うキャラクターやマナを生み出す土地の物語を知ることで、単なるゲームの駒として以上の愛着と没入感を得ることができる――そんな体験を、特に「ヴォーソス」(背景世界のファンであるプレイヤーを指す言葉)を自認するプレイヤーは毎回楽しんでいるかと思います。

 では、ゴジラシリーズについても同じことをしてみるのはどうでしょうか。

 そう、映画を見るのです。しかしながらゴジラ映画は本当に膨大なので、どれから見ればいいかわからない人も多いかと思います。そこで今回の記事では、MTGに登場する怪獣たちを出展作品と共に紹介し、原典での生態や映画の見どころをお伝えしていくことにしました。ですがそれだけなら新鮮味がないですし、私も「ゴジラシリーズをほとんど見ている」というだけで、何でも知っている熱烈なファンだとは到底言えません。そこで「ゴジラシリーズをほとんど見ているMTGのオタク」にしかできない視点での記述を交えていくことにします。それはすなわち、

各怪獣の「本来の」クリーチャータイプ

カラーパイ漫談師として判断した作中における各怪獣が属するカラーパイ

の2点です。これらは『イコリア:巨獣の棲処』においてはイラスト差し替えという手法のために、微妙に外れていたり、場合によってはかなりトンチキになってしまっているのです(それはそれで面白いですが)。

 ちなみに、ゴジラシリーズの映画作品は現在Amazon Primeに入れば殆どが無料で視聴できます。例外は『キング・オブ・モンスターズ』と『GODZILLA』アニメ三部作ぐらいです。なので、変な先入観を持ちたくないのでしたら今すぐ見に行って貰っても構いません。では、そろそろ記事の本題に入りましょう。

ゴジラ:地球の怒りに咆哮する「怪獣王」

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初登場作品:『ゴジラ』(1954)

・出典作品:『ゴジラ』(1984)~『ゴジラvsデストロイア』の「vs」シリーズ

 怪獣映画を一本も見たことがない人でも、殆どがその力強く響き渡る名前と刺々しい背びれを王冠のように戴いた巨体を知っているでしょう。65年続いてきた壮大なシリーズの看板であり、誰もが知っているからこそプロ野球選手のニックネームにすら使われ、日本のキャラクターで唯一ハリウッドのウォーク・オブ・フェームに名を連ねる。ゴジラという存在はもはや文化となっており、語り尽くせないほどの逸話に満ちていますが、今はキャラクター性にMTG的な視点から焦点を当てることに専念しましょう。

 まず、今回カード化されたゴジラのクリーチャー・タイプ(種族)は「恐竜」です。意外に思われるかもしれませんが、実は恐竜が起源だと設定されているゴジラはそう多くありません。事実、第一作では「水棲爬虫類から陸上獣類へ進化する中間の生物」と推測されています。MTGではなんとも分類しにくく、ビーストに押し込まれるでしょうか。『ゴジラモスラキングギドラ 大怪獣総攻撃』では太平洋戦争の犠牲者の怨霊=スピリットですし、アニメ『GODZILLA』三部作に至ってはなんと植物です。

 では明らかに恐竜であるゴジラの出典はどこなのかといえば、1991年公開の『ゴジラvsキングギドラ』です。この作品では、「ゴジラザウルス」という恐竜の生き残りが水爆実験の影響で変容しゴジラになると語られています。また本作に登場する2体のゴジラは1体は前作『ゴジラ』(1984)および『ゴジラvsビオランテ』の個体と、もう1体は続編の『ゴジラvsモスラ』~『ゴジラvsデストロイア』に登場するものと同一なので、一連の「vsシリーズ」全体で共有できる設定と言って良いでしょう。カードに描かれた筋肉質な体型、小さめの頭部と鋭い瞳、背中の高い位置に分布した最大の背びれといった特徴も、同シリーズにおける『vsビオランテ』以降のゴジラの様相を呈しています。ボックスプロモ版だけでなく、アンコモン版も同様です。(なぜか爪が真っ黒ですが)

 上記を踏まえると、vsシリーズのゴジラのクリーチャータイプに恐竜が含まれるのは間違いありません。ただ放射性物質によって肉体が爆発的に変化したことを踏まえると、「変異体」を意味するミュータントのクリーチャータイプを持っているとより適切に思えます。つまりミュータント・恐竜が彼の「本来の」クリーチャータイプです。

 カラーパイに関してですが、vsシリーズのゴジラはカード同様に緑赤です彼は本シリーズにおいて「人間のエゴにより安住の地を失いさまよう悲劇の生命」と「本能のままに暴れまわる人類文明の脅威」という二面性を強調されており、それは緑の巨獣を通して文明批評を行う際の両極の視点と言えます。また人間への怒りをぶつけるかのように都市に上陸して暴れまわる一方で、『vsキングギドラ』ではかつてゴジラサウルスだった頃に遭遇した人間に対して入り組んだ感情を示し、『vsメカゴジラ』以降では最後の同胞ベビーゴジラへの愛情を見せるなど、赤らしい多様で激しい情動を持ちます。この怪獣の感情表現の機微はvsシリーズの特徴の一つとも言えるので、基本的に人間と馴れ合わないけれど怪獣なりの心を持つ、キャラクター性の強いゴジラを見たい人にはうってつけです。

 また今回のコラボとは直接関係ありませんが、記念すべき第一作であるゴジラ』(1954)はシリーズを履修するスタートラインとしても非常にオススメできます。それは単純に映像史に残る珠玉の名作というだけでなく、以降の殆どの作品が「他シリーズ作品との連続性がなくても、初代ゴジラの事件は起きている」設定だからです。特に『ゴジラvsデストロイア』や『ゴジラ×メカゴジラ』は初代との繋がりが非常に強いため、先に見ておくと物語をより楽しめます。

 ちなみに今回のコラボでカードの名称にも用いられた「怪獣王/King of the Monsters」の名は、1956年に上映された第一作目の海外版のタイトルに端を発し、2019年の最新作『キング・オブ・モンスターズ』でも用いられた象徴的な称号です。つまり、ファンにとっては非常に粋なチョイスというわけですね。

 あ、4回サイクリングすると出てくる巨大不明生物については当記事の「その2」で別項目を設けて後述します。

アンギラス:時に凶暴、時に忠実な昭和の「暴竜」

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初登場作品:『ゴジラの逆襲

出典作品:恐らく『怪獣総進撃』~『ゴジラ対メカゴジラ』の個体

 アンギラスゴジラシリーズ第二作目『ゴジラの逆襲』で初登場し、ゴジラと初めて交戦し、「怪獣と怪獣が戦う」という以降多くの作品で用いられるフォーマットの先鞭をつけた偉大なパイオニアです。凶暴な性格をした1体目は大阪に上陸してゴジラと激闘を繰り広げた末に殺害されたものの、『怪獣総進撃』以降昭和シリーズの終盤まで登場した2体目は協調性が高く、宇宙からの侵略者と戦うヒーローとなったゴジラのよき相棒として活躍しました。

 一方で平成の作品では四足歩行の演出しづらさや後の怪獣と比べて地味な外見が災いして、出番に恵まれませんでした。企画段階では起用されていたのに最終的に消えてしまうことを繰り返しているのは、特筆すべき不幸です。1974年の『ゴジラ対メカゴジラ』を最後にスクリーンを去った彼がようやく再登場を果たしたのは、ちょうど30年後の『ゴジラ FINAl WARS』のことでした。

 アンギラスはその出自が恐竜だと明言されており、少なくとも初代はゴジラ同様に水爆実験で突然変異を起こしています。そのためクリーチャータイプは恐竜・ミュータントとなるはずです。

 さて、カラーパイの話をするにはまずこのアンギラスがどの作品のものかを特定しないといけないのですが、少し自分の判断に自信がありません、と前置きしておきます。というのもこのイラストはアンギラスの出典を定める因子の一つである「角の本数」が正確に判断できない構図だからです。その上で「初代と違って背中の棘が整列しており、横向きに生えているものがない」「FINAL WARS版と違って二の腕や腿の棘がない」という点から、怪獣総進撃』~『ゴジラ対メカゴジラ』に登場した二代目アンギラスなのではないかと判断しています。もしアンギラスに詳しい方がツッコミ所を発見されたら、ぜひ教えていただけると幸いです。

 その上で、二代目アンギラスのカラーパイは白単色なのではないかと考えています。彼は平時は温厚ですが戦闘が始まれば恐れを知らずに闘い、『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』においてはゴジラの命令を受けて偵察に向かう忠実な姿を見せています。そして同作ではガイガンの攻撃からゴジラを庇うような描写もあり、仲間を守るために自分を捨てることすら厭わない精神性の持ち主なのです。カードの色である緑はむしろ、本能のままに暴走する典型的怪獣だった初代アンギラスに似合いますね。

 二代目アンギラスの登場作品といえば、なんといっても怪獣総進撃でしょう総勢11体の怪獣が暴れまわり、世界中のランドマークが破壊され、地球怪獣軍団が富士の裾野でキングギドラを包囲する! 映画全体を貫く混沌とした熱量の中で、一番槍としてキングギドラに牙を立てるアンギラスの勇敢さが光ります。

キングシーサー:沖縄を守護する曰く付きの「伝説怪獣」

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・初登場作品:『ゴジラ対メカゴジラ

出典作品:同上

 このカードを初めて見た時、私は正直メチャクチャ驚きました。キングシーサーといえば、映画作品には2回しか出てきてないし戦績も芳しくないドマイナー怪獣だからです今回のコラボで2枚もカードを作ってもらえた上に片方は神話レアというのはハッキリ言って奇跡ですね。この怪獣は『ゴジラ対メカゴジラ』と『FINAL WARS』に出演していますが、耳の形状やアンコモン版の足指の数からして出典は『対メカゴジラ』のほうかと思われます。

 キングシーサーは名前の通りシーサーの怪獣です。古代琉球に存在したという設定の架空の国『安豆味王国」の守護神であり、言い伝えによればかつて本土の人間が侵略に来た時に目覚めて戦ったと言われています。その割に太平洋戦争はスルーしているはずなので、沖縄そのものではなく飽くまで王族の守護神なのかもしれません。

 出典作品ゴジラ対メカゴジラ(「ゴジラ対」のタイトルを持つ作品は70年代までのいわゆる昭和シリーズで、80年代からの「vs」シリーズや2000年からの「ミレニアム」シリーズとは別物です)において、キングシーサーは宇宙からの侵略者ブラックホール第3惑星人が作った兵器であるメカゴジラを迎撃します。ですが登場シークエンスが曲者で、安豆味王族の末裔・那美が3分ぐらいかけて歌を歌わないと封印が解けません。その結果、すでにメカゴジラは出撃しているのに戦闘が発生しないままムード歌謡をじっくり聞かされるという珍事が起きており、しばしばネタにされます。

 キングシーサーの怪獣としての強みは、ビーム攻撃を右目で受けて左目で反射する技と、敏捷な動きから繰り出される連続攻撃です。後者はカードで持っている二段攻撃に通じるかもしれません。しかしメカゴジラは大量のミサイルを搭載しているため最初の攻防が終わるとすぐにビーム反射をケアされ、パワー面で大きく引けをとっているため接近戦もあまり効果的ではありません。最終的に沖縄に上陸したゴジラが参戦すると、キングシーサー怪獣王を盾にするかのごとく後方に控えてしまいます。そしてゴジラの新たな能力によってメカゴジラが拘束されるや否や水を得た魚のように凄まじい勢いで連続タックルを浴びせ始めるという、なんとも微妙な戦いぶりを見せるのでした。

 キングシーサーのクリーチャータイプですが、猫であることは間違いないと思います。なぜならMTGにおいてはネコ科動物はライオンやトラのような猛獣もレオニンやラクシャーサのような亜人、更にはイコリアの怪物たちも含めて猫であり、獅子を模した神獣であるシーサーが猫ではない理由がないからです。そして守護獣としての霊性を反映するなら、スピリットとかアバターとかのクリーチャータイプが適切かと思われます。つまり猫・アバターでどうでしょう。え、神? そんな格は残念ながら……。

 キングシーサーのカラーパイは白単色です。この怪獣は何よりもまず王族の守護者です。そして歌を2番までしっかり歌いながら祈りを捧げないと動かないし、国土が蹂躙されようと国家の体制が変わっていれば放置するお役所仕事的なところがあります。この良く言えば厳格、悪く言えば柔軟性に乏しい性質は白の一側面であり、能力の一つが相手がビームで攻撃しなければ意味がないのも事後対応的な色としての特徴を示しているわけです。生物というよりは、そうあるように構築された機構に近い印象かもしれません。自由と個我の気風が強い黒赤の性質は感じられず、カードとの乖離が比較的大きい怪獣の一体かと思います。(アンコモンの方は白単ですが)

 そんな彼が登場する『対メカゴジラ』は、スパイアクション仕立てのスリリングなストーリーラインやタイアップによって安くロケができたという沖縄の風光明媚な景色、そして何よりもシリーズを通してゴジラの前に立ちはだかる強敵・メカゴジラの魅力的な初登場をエンタメ性豊かに描いた秀作です。メカゴジラの攻撃で巻き起こる爆発や「首が360度回る」などの機械ならではの演出はド派手で、本作で多用されるゴジラの流血描写も相まって「最強のマシンと最強の生物」の対比を存分に楽しめます。ぜひ、昭和の特撮の底力を楽しんでください。

ビオランテ:悲劇が生んだ異形の「バイオ怪獣」

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初登場作品:『ゴジラvsビオランテ

出典作品:同上

 第一作目でまだ鮮明に記憶されていた戦争の恐怖を語り、水爆実験に警鐘を鳴らしていたゴジラシリーズは、以降も作風や怪獣の設定に制作当時の世相や最新の技術を強く反映します。バイオテクノロジーの暴走が生み出した薔薇とG細胞――凄まじい生命力を秘めたゴジラの体細胞――の融合体、ビオランテはまさにその一例です。

 ビオランテ遺伝子工学の権威・白神源壱郎が、とある事件によって亡くなった娘の遺伝子を組み込んだ薔薇を素体としています。三原山火口内で休眠中のゴジラが活動したことによって地震が起き、その薔薇が死滅しそうになった時、源壱郎は「不滅に近い再生力を持つG細胞を組み込み延命を行う」という考えに至りました。そして対ゴジラバクテリア兵器の開発に協力する見返りに、G細胞を調達して恐るべき構想を実行するのです。その結果、薔薇はビオランテと化してしまいました。ゴジラvsビオランテの事件の元凶はある意味彼です。怪獣同士が戦う段になっても責任を取ると言うよりは淡々と状況を観察する姿は狂気すら感じさせますが、娘の死によって彼の心はどこかが壊れてしまったのかもしれません。

 ビオランテの構成要素は3つです:白神源壱郎の娘である英理加の細胞、薔薇、そしてG細胞。つまりクリーチャータイプとしては人間・植物・恐竜ということになります。コラボでビオランテのイラストを与えられた《死の頂点、ネスロイ》のクリーチャータイプである猫・ナイトメア・ビーストが掠りもしていないため、ネタにされる度合いは一番大きい気がします。挙句の果てに英理加役の沢口靖子さんは実は猫だったのでは?なる珍説まで飛び出す始末です。

 クリーチャータイプの複雑骨折ぶりとは裏腹に、緑黒白という色の組み合わせはビオランテが持つ要素を正確に捉えています。それは植物であり、またゴジラの眷属です。死者の復活を望む強いエゴの元に、生命を容赦なく弄んだ結果の産物でもあります。そしてまだ僅かに人間の意思と優しさが残っており、薄れゆく英理加の心は怪獣と成り果てることを望んでいません。MTGでのイラストも、今のところ市街には被害が出ているように見えず、もしかしたら怪獣性と人間性の葛藤で動きが止まっているのではないか――と想像してみるのも乙なものです。

 『vsビオランテ』は、シリーズファンの間でもストーリー面が高く評価されている作品です。G細胞をめぐる国家間の策謀戦、怪獣を生み出した人間の狂気と悲哀、ゴジラ上陸阻止作戦の緊迫感といった多様な要素が、終始シリアスなトーンの中でうまく融合しています。まるでビオランテ自身のように。一方で特撮面でも、設定段階では動かないはずだったビオランテが幾つもの触手を振るいながらゴジラに迫る衝撃的な操演シーンなど、戦闘シーン自体は短めながらこの作品ならではの見所があります。何を見るか迷ったら取り敢えず見てほしいゴジラ作品の一つです。

キングギドラゴジラ宿命のライバルたる「超ドラゴン怪獣」

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初登場作品:『三大怪獣 地球最大の決戦

出典作品:『ゴジラvsキングギドラ

 凶悪さの中に威厳が同居した黄金の巨体、生命としての異質さを窺わせる獰猛な3本の首、伝説に語られるドラゴンそのものの強靭な翼。見た目からして絶大なスター性を誇るキングギドラは、ゴジラの宿敵No.1と言える怪獣です。作品によって宇宙産だったり未来産だったり国産だったり異次元産だったり、世界観と共に設定も大きく変わりながらも、ゴジラと相対するときは必ず強敵として君臨しています。

 このイラストに描かれた個体は、頭部の形状などからしゴジラvsキングギドラ準拠のデザインです一方で「宇宙の帝王」という二つ名は『三大怪獣 地球最大の決戦』以降の昭和シリーズや、『キング・オブ・モンスターズ』で描かれた宇宙怪獣としての姿を連想させ、チグハグな印象です。少し判断に悩みますが、同時にドラットが収録されていることや色(いずれも詳細は後述)から、このギドラは『vsキングギドラ』版がベースということで話を進めて行きます。

 『vsキングギドラ』におけるキングギドラは、23世紀の未来人が生み出した人工生物ドラット3匹がタイムマシンで運ばれ、20世紀のビキニ環礁で行われた核実験のエネルギーによって融合・変異したことで生まれた怪獣です。また書籍などに記載される二つ名は「超ドラゴン怪獣」となっています。上記を踏まえると、クリーチャータイプはドラゴン・ミュータントということになりそうですビオランテ同様に掠りもしていませんが、白が含まれていないと猫が入らないせいであまり面白くはありません。

 キングギドラは前述の通り登場作品によって出自と性格が大きく異なり、例えば『キング・オブ・モンスターズ』や『モスラキングギドラ来襲』の個体は自我が強く狡猾で黒青の要素が強いですが、vsギドラに関して言えばカード通りの青赤緑が適切に思えます本作のキングギドラとは即ち爆発と放射線のエネルギーを利用した進化を遂げ強大な肉体を獲得した人工生物であり、その発生過程に赤の突発性、青の作為性、緑の成長と適応が全て含まれているのです。また当該個体は特殊な音波によって未来人に操作され、現代の日本を襲いますが、MTGにも《呪文縛りのドラゴン》という「赤のドラゴンを青の陣営が洗脳し操っている」というフレーバーを持つクリーチャーがいます。個人的には邪悪な宇宙怪獣キングギドラが好きなのでギドラには黒のイメージがあったのですが、vs版であることを前提に考察してみるとかなり筋が通っており、コラボカードの中でも感動を禁じ得なかった1枚です。

 娯楽大作、という言葉が『vsキングギドラ』にはピッタリ合います。敵役トップスタァであるキングギドラゴジラの対戦相手に起用し、更にサイボーグへと改造された姿のメカキングギドラまで登場する大盤振る舞い。敵味方が状況の進展によって目まぐるしく入れ替わる波乱に富んだ展開と、ド派手な全体像の中で良い意味で浮いている「ゴジラに救われた男」新堂靖明とゴジラ自身の悲壮なドラマは見る者を飽きさせません。臆面もなく繰り出される『ターミネーター』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『エイリアン2』などのSF洋画に露骨にインスパイアされた箇所や真面目に考えるほど混乱してくる矛盾した時間旅行の描写などおおらか過ぎる部分もありますが、心の底から「楽しい」という気持ちが沸き上がってくるゴジラ映画です。

 また「宇宙の帝王」の名に相応しいキングギドラを見たい方には、ゴジラシリーズ最新作『キング・オブ・モンスターズ』を手にとって頂きたいです。本作のキングギドラは無慈悲さと邪悪な知性と悪意ある感情を兼ね備えた黒青赤の宇宙怪獣であり、地球本来の怪獣王であるゴジラに挑みかかる「偽りの王」としてのカリスマ性を発揮します怪獣の表現がCGに移行したことを活かした翼を腕のように活用し荒々しく疾駆するギドラの姿はまさに大迫力! ドハティ監督の「ゴジラ信仰」に根ざした神々しさすら覚える怪獣の姿とパンチの強い狂人ドラマには、Amazon Primeで無料じゃなくても円盤を買ったりレンタルするなどして見る価値があります。

⑥ドラット:未来人の陰謀に利用された「バイオ生物」

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初登場作品:『ゴジラvsキングギドラ

出典作品:同上

 ドラットについては、キングギドラの記事でほぼ説明しているので単体の解説は大胆に省略します。このカードは赤青ですが「専用の笛によって飼い主の感情を理解し、命令を聞く」という能力が、赤の共感性と青の操作の要素を示し、また何よりも完全な人工生物なのでカラーパイ的には違和感がないですね。

モスラ:生命の守護神、心優しき「巨蛾」

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・初登場作品:『モスラ』(1961) ゴジラシリーズ内では「モスラ対ゴジラ

・出典作品:『ゴジラvsモスラ

 単独映画でデビューを飾った後、ゴジラシリーズに合流後も重要な役割を演じ続けたモスラは、名実ともに怪獣王ゴジラに比肩する「怪獣の女王」です。巨大な蛾を思わせる優美な外観に、ゴジラキングギドラといった強豪たちと渡り合う強さと勇気、そして人間を含めた生物を慈しむ優しさを併せ持ちます。かくいう私も初めて劇場で見た怪獣映画は『モスラ3』――平成モスラ三部作の完結編で、史上最強のモスラが歴代最強クラスのキングギドラと激闘を繰り広げる力作――ですので、少なからぬ思い入れがある怪獣です。

 モスラが登場する作品は非常に多いですが、今回のカードイラストはゴジラvsモスラのバージョンに基づいていると思われます。モスラの航跡を染めて舞う黄金の鱗粉は、川北紘一特技監督の十八番である金粉をふんだんに使用した、同作のクライマックスシーンを思い起こさせる美しさ! このあたりは実際に映画を見てもらえれば実感が深まるのではないでしょうか。

 登場作品を問わず、モスラのクリーチャータイプに昆虫が含まれるのは明らかです。珍しくコラボカードと完全な噛み合い方ですね。というより元々のカードである《光明の繁殖蛾》自体が巨大な蛾を描いたものなので、根本的にモスラトップダウン・デザイン(明確な元ネタがあり、そのMTG流の再現を意図したデザイン。例えば映画『ザ・フライ』から着想した《秘密を掘り下げる者》やアーサー王伝説の聖杯を元にした《永遠の大釜》など)である可能性すらあります。作品によっては神やスピリットといった超常系種族を持つ場合がありますが、『vsモスラ』準拠なら昆虫のみでいいでしょう。

 また同作におけるモスラのカラーパイは、白緑であると判断するのが妥当かと思います。彼女は超古代文明の担い手だった小人種族・コスモスに崇拝される存在です。超古代文明の終末期、後述するバトラが行き過ぎた文明を破壊するために出現した時には、飽くまでコスモスを守るために立ちふさがりました。またバトラやゴジラといった脅威も殺害ではなく封印で処理しようとする姿勢は、フレーバー的に殺害ではない除去、特にエンチャントによる追放除去や戦闘参加の禁止を擁する白そのものといえます。一方でモスラには「地球の意思が生み出した守護者」としての側面もあります。そして卵→幼虫→繭→成虫の各形態がそれぞれ印象深く描写され、生命の成長を体現する存在です。

 『vsモスラ』は「極彩色の大決戦」のキャッチコピーに違わず、夜空を舞うモスラの色彩やvsシリーズの特色である怪獣同士の光線の応酬が鮮やかに描かれている作品です。作品のテーマは90年代のエコロジーブームを前提としており、今見ると少し時代遅れに感じる面もありますが、主役の人間たちにコスモスが投げかける別れの言葉は今見るからこそじんわりと染みるものがあって好きなんですよね。ぜひ、確かめてみてください。また人間側のドラマの軸となる「上司に使われる者の苦労」「離婚した二人の娘を挟んだぎこちない再会」といった要素も、手堅くまとまっています。

⑧バトラ:地球生命が遣わした「戦闘破壊獣」

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初登場作品:『ゴジラvsモスラ

出典作品:同上

 「黒いモスラ」とでも形容すべき姿を持つバトラは、実際にモスラの亜種です。しかし文明や人間もまた地球の一部として守り、巨体ゆえに被害を出してしまっても意図的な破壊は行わない「守護神」モスラとは異なり、地球にとっての害であるのならば容赦なく都市も人も焼き尽くすのが「破壊神」バトラのスタンスなのです。余談ですが、1990年代は『機動武闘伝Gガンダム』の東方不敗マスター・アジアとか、『覚悟のススメ』の葉隠散さまのようなエコテロリスト的思考のライバルキャラが多かった気がします。

 バトラが登場した映画作品はゴジラvsモスラ一作のみです。遥か昔に気候を操作するテクノロジーを開発したコスモスを地球の敵として攻撃し、モスラと交戦。文明を破壊することには成功したものの、モスラには敗北して封印され、人間の時代が始まってからもずっと眠り続けていました。次に目覚めるのは西暦2000年に地球を直撃する超巨大隕石を迎撃する時になるはずでしたが、環境汚染によって地球が危機に瀕していると判断し、1992年に前倒しで復活して暴れ始めてしまいます。更にゴジラまでもが出現し、モスラゴジラ・バトラの三つ巴の闘いが始まるのです。モスラとバトラは手段が大きく異なるだけで、両者の使命の根幹は同じはずなのですが――?

 バトラはモスラ同様に昆虫のクリーチャータイプを持っていると考えられます。カードの能力的にはモスラと違い繭の期間を経ずに突然幼虫から成虫に変容し、破壊を振りまく様子とうまく噛み合っているのですが、種族的にはトンチキな部類の配役です。

 バトラのカラーパイは緑黒であると考えられます地球という一つの生命体を保全するための端末であり、外敵を破壊する一方で内部の文明が行き過ぎたテクノロジーを持った場合にも襲いかかる、というのは非常に緑的です。また目的のために手段を選ばず、本来的には同じ地球に奉仕する存在でありながら方法論の違いでモスラをも敵と見なす(直接に利害の対立が発生していた超古代の戦闘はともかく、現在において卵から生まれたばかりの幼虫にまでいきなり襲いかかっています)という点では黒です。そして本作のクライマックスにおける重要なシーンで選んだ行動も、「必要であれば何でもする」黒の現れだと言えるでしょう。

怪獣の進撃はつづく

 コラボ怪獣を半分程度紹介し終えたところで、一旦区切りをつけたいと思います。文字数も10000字を超えてしまいましたからね。次回「その2」は近日中、具体的には皆さんがMTGアリーナで『イコリア:巨獣の棲処』をプレイし始めた頃にアップロード予定です。主役から名バイプレイヤーに転向した空の大怪獣ラドン、全く想定しない形で何かと話題になってしまったスペースゴジラ、vsゴジラ最後の敵デストロイア、対ゴジラ兵器メカゴジラ、そして無限に進化を続けるあのゴジラ……まだまだ凄ぇ奴らがいっぱい待っています。お楽しみに!

 (4/19追記)

続きをアップロードしました。どうぞ!

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